きょうだいの形に触れる姉妹(の妹):スローループ60話

本作の傾向として、1巻単位以上の長期的構成に、3巻の単位がありそう。
何となくそんな憶測をしたスローループ最新話でした。

1話1話、1巻1巻、あるいは作品全体で、主題への回帰は重要です。
スローループで言えば、海凪姉妹、海凪家、他の様々な人間関係が最善に収まる形を手探りで見つけていくこと。
そのうち “海凪姉妹” のほうに、本作は改めてフォーカスしつつあるようですね。
そして言わずもがな、そのキーパーソンは小春
6話サブタイトル=同話における恋ちゃんの言葉を改めてリスペクトするなら、海凪姉妹にとって理想的な ”きょうだいの形” をひよりと小春が見出せた時、本作の物語は一つの大きな区切りを迎えると言ったところでしょう。

そしてその節目を今一度見据えるに辺り、これまでとの決定的な差異を外すことはできません。
“3巻単位” の境に当たる42話 (6巻ラスト) と43話 (7巻初回) において提起された “きょうだいを構成する1人” “姉” としての小春を皮切りに、7巻では出会いから1年を経た海凪姉妹の変化を、8巻では海凪姉妹を含む様々なきょうだいの関係性を、それぞれ要素として折り込んできました。(厳密に言うならば、43話は単独の起点になるほどの密度ではないため、42話が次の “3巻単位” へ向けた良いバトンパスになっていたと見るべきか)
その上で臨む今回は、9巻の起点としても、7巻から続く姉妹の物語を更に展開させる上でも、非常に実直なエピソードと言えるものでした。

きょうだいの形:高校の友達編

美月さん咲良さんのきょうだい事情が気になるらしい、”妹離れ” 真っ只中のひより。
思いの外自然に2人のきょうだいにまつわる逸話を窺える場面が来たことで、ボクはとても嬉しくなりました。
海凪姉妹に他の姉妹の在り方を示して物語を展開させる一要因というのもありますし、これはボク個人がそういうディティールを大切にする作品を気に入りやすい (ボクの推薦できる作品が漏れなく備えるポイントなので) のもありますし、またあるいは単純に物語へ絡む登場人物についてより多くを知れることが嬉しいのもあります。

美月さんは3人きょうだいの真ん中だそうで……男に挟まれた女の子って大変なんだろうなあ。同じケースに関する話を聞いたことはないですが、姉と妹に挟まれた男性の話を聞いたことはありまして、やはり割とぞんざいに扱われる状況もままあったようです。
それから、この美月さんの “弟” というのがちょっと個人的に気になる点でもあり。初登場回からなぜか美月さんの弟が小学生組の山本君なのではないかと勘繰っていた (もっと言えば15話の頃から山本君の姉がひよりたちと絡んだりしたらなんて勝手な想像をしていた) 身として、更に続報が待たれるところ。
他方咲良さんは、1学年上の姉をもつ妹ですか。歳が近くかつ対等となれば、海凪姉妹に近いところもあるのでしょうが、そうかと思えば仲が悪いといった話もあり。8話以前における恋ちゃんから良太さんへの姿勢のように、険悪な間柄と認識しているのが当人たちだけであればそれはそれで美味しいですし、本当に険悪な間柄なのであれば “重視する必要のない家族関係” という、家族物語としての強度を底上げするファクターが付いてきます。相当鬱憤が溜まってるのを見ると後者の可能性もまあまあありそう。
双方共に興味深いきょうだいの姿があるからこそ、この二人がフィーチャーされる回もまた、来てほしくなるばかり。

妹離れ (喧嘩)

前話におけるひよりと小春の一件に関しては、ボク自身「これ喧嘩か?」と飲み込めずにいたんですが、まあひより本人が喧嘩と言ってるので喧嘩ということにするとして……

ひよりが仮説を立てた、姉ならば下の子の「面倒をみたい」と考え、それを理想とする小春の姿。
小春が自然とひよりの面倒を見る形になったような場面は42話以前にも散見されたハズですが、思えば姉の立場がない場面もしばしばあった辺り、不憫と言えば不憫でもありますね。
今話では妹離れの影響で姉らしい立ち回りを恋ちゃんがするしかなく、また小春はそれをやっかんでいる様子。
あるいは、20話21話の出来事も大きいかもしれません。あちらでは当のひよりから「およそ姉とは思えない様相」とまで言われてるし……
7話のように考えすぎなければ、(2人だけで過ごしていたのを他の要因として考慮するにしても) ひよりから難色を示されない姉らしさが出せるワケで。こういった描写を思い返したり、小春の過去にも思いを馳せたりしながら、小春が自身の理想と折り合いをつけられる在り方をどう見出していくのか気になりますね。

50話感想の際、小春については考察をストップすると記述していました。ですがボクは、何だかんだで結局考察をしたくなる性分。それに、長期的な視野で本作を見ている限り、悪手として残り続けているシナリオ構成も存外ないと言えるでしょう。要するに7巻8巻の内容も決して幕間に終始しているワケではなく、ここからの物語を描いていく上で必要だったと判断できる範囲。
優れた作品ならば尚更、作品に浸る一つの方法として、ボクにとって考察は欠かせません。その内容はもうブログにも書かないよう配慮しつつ、頭の中の引き出しには色々と続きがありますので、もし気になる方がいらっしゃいましたらお伝えくださいませ。

ひよりと恋ちゃんの関係性における幼馴染以外の要素

さて、そんなボクが今話で敢えて書きたくなった考察は、何の因果か小春ひより姉妹ではなく、ひよりと恋ちゃんにまつわるそれでした。

ひよりがきょうだいについて考えるに当たり、美月さん咲良さんよりももっと旧知の仲であった恋ちゃんたちを外すことはできないでしょう。
なんですが、海凪姉妹の形を見出していこうとするひよりには、その吉永きょうだいへ想像を向ける様子がありません。
前話の一件があった後、ひよりならすぐ恋ちゃんに相談するくらいの選択肢はあるハズ。にも拘わらず、ひよりは気になる小春の様子を恋ちゃんから聞くこともなく、また恋ちゃんは海凪姉妹の様子を小春からしか聞けておらず (P41-3「まだ妹離れしてるの?」) 、この件において恋ちゃんを頼る意思がまるで見えない。
正直これは割と想像していませんでした。反面、ここからひよりの人物像と恋ちゃんへの姿勢を窺えそうだと感じた面も多分にあります。

今回、共通項のある咲良さんの談を聞くことで小春の心境に辿り着く糸口を掴んだように、そもそも自身の感覚と思考を経由しなければ考えるまでに至れない事柄も見受けられるひよりが、この喧嘩では恋ちゃんでなく美月さんと咲良さんを頼っていることからは、吉永きょうだいの事情から得られる知見がないと判断している可能性が浮き彫りになります。
吉永きょうだいに喧嘩がなかなか見られないのは、事実としてこれまで作中には描写が存在しない点から概ね容易に至る帰結。しかし一切の喧嘩がないきょうだいというのも、そうあり得ないことでしょう。また、ひよりが既に恋ちゃんたちのきょうだい事情を漏れなく把握しているのだとしても、ここで再度事情の整理を行わないのはやはり注目に値する箇所。
まるで、恋ちゃんは弟たちと喧嘩もせず仲良くやっているのが、いつでも変わらないだろうとばかりに。

この構図に、ボクが関連性を見たのは28話でした。
信也さんを亡くした後のひよりにとり、何も変わらず接していた姿勢が合致し、当時言葉にされなかった感謝を伝えられるほどの正解を叩き出していた恋ちゃん。
なまじ長く交友があるせいか、ひよりから見た恋ちゃんはずっと変わらない存在であるとの認識が固着している (またはそもそも変化を認める目が鈍くなっている) のではないか。そして「変わらない役割」を望んでもいるのではないか。
これはただの幼馴染に収まらない、ユニーク極まる関係性と言えるでしょう。美しいと同時に、種々の危うさを含んでもいそうな。

その他記述できていなかったポイントを列挙しようのコーナー

先駆けて荷物を預けた際に周囲から注目されまくる小春たちを目の当たりにし、恥ずかしがるひより。可愛い。
そんなひよりとの妹離れの一件に関連して、恋ちゃん「小春って猫に嫌われるでしょ」。つまりひよりは猫との類似性を感じ取られている……
飛行機搭乗の前日に飛行機が墜落しそうになる映画を見る小春、趣味性の描写は久々ですね。
ひよりについて小春は「彼氏なんかより深い絆で結ばれた人」と語ってますが、この後2日目、当の小春は美月さんから「彼氏なんかよりややこしい存在」呼ばわりされてます。この差よ。
2日目、ひよりたちがシュノーケリングを体験する場面はすごく綺麗ですね。P48-5、水中のひよりの表情やその次の1ページ丸々使って海底を描いたコマもなんですが、水面近くにいるひよりたちの身体に光の斑模様が浮かんでいる (P50-2、P52-2、P52-4) ことで沖縄の海の透明感がよく伝わってくる。
60話より
こういう光の表現は絵を描かない身からしても手法次第で印象が変わるのが理解できるというか、人によってはこの海中の描写でブログ1記事分くらい描きそうな感じ。
その次、シーサー工房にいるひよりたち。ひよりが可愛いのはもちろんとして、美術方面には手慣れているだろう咲良さんの手先に感服したり、彫っているシーサーを見つめる視線が大層職人的+そこはかとない色気も感じて素敵だと見惚れたり。尚対照的に興味の湧いてなさそうな美月さん……
その美月さん、タイイングをする様子を見たひよりから、小春にちょっと似てるのかもと思われている様子。30話でもそういう言及があったなあ。
P54-4の咲良さんはひよりを覗き込むような視線でこれがまた可愛い。前ページと同一人物ですか本当に。
P57-4、4人部屋にいるもう1人の生徒も……その眠たげな半目はボクに効く……色々な意味で……
P58-2で5人が並んで立っているのを見ると、身長差はあんまり感じないですね。前話の美月さん、自身をでかいと言ってましたが、高く見積もっても160台前半なんじゃないか。強調するほど高くないから……可愛いし可愛い装いも絶対似合うから……
そんな5人の元には良太さんたちの姿も。恋パパって……便利……(震え声)

終わりに

「だ 大丈夫……だよね?」←フラグじゃないですか。
21話と逆の構図になったりするのか、それとももっと別の展開になるのか。
ボクが頭一つ抜けて気に入っている人物であるところのひよりに襲い掛かるフラグなのでちょっとビビりますが、小春ひより姉妹の物語がどう転んでいくか、楽しみなのは確か。

Written on July 24, 2023