Identify Me - lainの思想に影響を受けて今になり曲を作ってみた一個人の話

当エントリは serial experiments lain Advent Calendar 2022 4日目……の補記になります。
今回また新たな2次創作を制作するに当たりlainに関しても色々まとめたいなあと感じましたので、おそらくこれに先んじて投稿されているであろう楽曲のお供にでもご覧いただければ幸いです。
初めましての方は初めまして。とーます・らむだきーと申します。元は時々SSを書いてネット上に放り投げている身でしたが、昨年春から同人活動の一環としてチップチューン制作も始めまして、その際はTLCという名義で作曲等しております。
ここ2ヶ月ほどはTwitterにもあまり顔を出していなかったものの、特段心身に不調があるワケでもなく、ボチボチ元気に過ごしています。
……まあ、ある意味では不調と言えるかもしれませんが、まずはその当たりについてのお話から筆を取っていくとしましょう。

あ、ちなみに「楽曲のお供に」と前述しましたが、意識して楽曲の話題をするつもりはあまりありません。
大雑把に説明しておくと、創作者の端くれとしての地が「自作品を第三者向けに解説するのは概して創作物の存在意義を根底から損なってしまう」という思想をもっていまして、ボク自身が受け手になる場合でもそういった解説の類を忌避するケースが多いためです (ちなみに原作lainは各メディアに共通するテーマなどもあり例外に当たります) 。
TwitterやSoundCloudの情報だけではあまりにも不親切だと感じてはいますので、『lain』の物語を今のボクがイメージして作った曲であることはここに示しておきます。その上で、今回の楽曲に関するチップチューンとしての技術的な話以外に、どうしてももうちょっとこの曲に関して気になることがある、あるいはこれをきっかけにlainについてまた何か考えてみたい、という酔狂な素敵な方がいらっしゃいましたら、この近況報告的なテキトー記事が参考になるかもしれません。
もちろんならないかもしれませんので、そこは悪しからず。

実はずっと「繋がっている」のは苦手

不調なのか、はたまた快調なのかはさておき。
ボクはどうしても、人との関わりそのものにエネルギーを消費する性でして。
度々、Twitterなどにあまり顔を出さなくなることにも、まずそれが要因として大きく関わっています。
他にも日照時間が減っていくからか、ボクは秋から冬入りが苦手な季節でもあったり。
で、2つの要因が絡み合ってしまうと、比較的長期に渡りプライベートで他者との接点を最大限避けようとしてしまう。
『lain』が好きだし、アニメの玲音もゲームの玲音も好きなのに、こんな性分なのです。我ながらちょっと面白い。

じゃあ一人の時は何してる (してた) の?

ここ1、2ヶ月くらいは、ゲームを色々とやったりしていました。
秋口くらいから「AdCがまたあったらちょうどいいし何か作りたいなあ……」と思い、アニメ版lainも改めて視聴していたので、その流れから自ずとPS版lainにも久々に手を出したり。
あとは、全く関係ないところで某ホラーアクションやホラー要素のあるADVなんかもやったり。
(『lain』には怖いところもあると思っていますが、決してホラーとは思っていません。この辺りは本当に全くの無関係です)

lain以外に触れたタイトルでは、とあるホラーゲームにおいてBGMとして使われていた曲が何となく印象的でした。
正確にはピアノのクラシック曲をそのゲームのシーンに当て込んだ、と言い表すべきですが、それにしても該当する2曲がそれぞれ効果的に使われていて、まるでそれらがそのシーンを演出するためにあったかの如く感じさせる選曲は本当に素晴らしいと言うよりなかった。

ピアノと言えばオルゴール、オルゴールと言えば

もちろんPSlainですね (無理矢理) 。他のゲームをプレーする傍ら、半ば並行してlainも初期状態からの全データ回収&閲覧をしていきました。
lainのプレー自体は今年の正月に (なんでこんな日にやってんの?) lainに触れた経験がある知人間で一緒に駄弁りながらプレーした以来。フラットな状態から最後までやり通すのは……もはやいつ以来だったっけ。そんなレベルでした。
雑感を書いていくと、一言目はやっぱり「怖い」になるかな。
まあ、時系列上この頃にこんな出来事があったなあ、というのを大まかには覚えていますので、そのおかげもあってかずっと一際ビビっていたハズのグロ描写などはあまり怯えずに見進められました。
じゃあ何が怖いかって、正直緊張が解けなかった要因として真っ先に上がるのはインターフェース放置時のランダムデータ一択と言って差し支えありません。
ちょっとお手洗いへ離脱している間に放置ムービー。喉が乾いたからと麦茶を取りに行って戻ってきたら放置ボイス。そんなのを数度繰り返しただけでビビりまくり。
裸の玲音が闇の中を走るムービーに当たろうもんならもう顔面蒼白です。堪り兼ねて一時的に画面の前を離れる時はデータ再生画面にしておくのが当たり前になりました。

もちろん、それをやるようになったからと言って恐怖がなくなるかと言うとそんなこともなく。やっぱり怖いデータは怖い。
Dc1053とか、今やっても真っ直ぐには直視できませんでした。件のオルゴール曲を鼻歌で歌いながら「お父さん」をブッ壊していく玲音……思わず続けざまに再生したDc1054で、息切れしている玲音に「ああまだ身体もちゃんと生きてる人間だよ……」と分かるようで分からない安心をしたり。
カウンセリングカルテも終盤めちゃめちゃ怖かった。玲音がカルテを乗っ取るのは覚えていましたが、声まで普通に入っているのがぞわっとしますね。Dia048「ありがとう、私の大切なクライアント」でEDに行った瞬間泡吹いて椅子から転げ落ちそうになりました。
あとは (声だけが) 柊子さんの語りかけデータも失念していてかなりビビった。”あの” 名前読み上げをしないほうの語りかけのほうが怖く思えるだなんて。もはや寄生ですらない、同化と言うか、いやもう何だろ……
傍観者のボクがこれほど精神を抉られる出来事に、当事者としてただただ巻き込まれた立場の柊子さんや牧野さんは、本当に不憫ですら収まらない。
こんなゲームでうっかりED視聴後の選択肢、endとcoutinueの仕様まで抜けていたこともあり、セーブせず1周データを閲覧してend選択→その周回がまるまるなかったことになるなんてミスもやらかしたりしました。おかげで恐怖倍増。
……それにしてもこの項、怖いばっかり言ってるなあ。

lainは怖いけど、それが実質ではない

そんな風に、ちょうどハマり始めた頃のような勢いで再びどっぷりlainに浸かって感じたのは、やっぱりこの作品が好きだということです。
アニメは当然ですし、ゲームもそう。まあ、ゲーム版はボクからするとキャラ作画さえちょっと怖く感じるのでアレですが…… (アニメは玲音も他の主要人物も概ねストレートに好きです。手元でBDを使って鮮明な姿を見れるのって幸せ!)
もちろんそういった表層だけでなく、思想ごと影響されている部分もあります。ボク自身理想論としては、英利やゲーム版玲音と同種の肉体すら介さない実存の在り方や捉え方を憧憬している側面さえあるほどです。この辺りは以前にも書いたことがあったかもしれない。
久々にlainに浸かってしばらく経った頃、親友の1人であり、ゲーム版の内容をプレイ動画で知っている方との間で、遍在する玲音についての話がありました。
曰く「私の中に玲音が存在してしまうのはやっぱり怖い、実際に名前を呼ばれたりしたらもう一生忘れられないかも」と。
その時、ここで書いている内容とだいたい同じようなことを返答しました。「玲音は怖いところもあるし怖いことも割とやってるけど、玲音が本質的に怖いかと考えたらそうでもないと思う」みたいな感じ。
思想の合う合わないを抜きにして、納得できなくても理解さえできれば決して怖いものではない。それにゲーム版玲音の思考も物語を繙いていく中で理解は充分できるようになっている (ハズ) 。
他者の思考や思想に多少影響されるのはよくある話。現代の科学ですら帰納性を排除できない分野についてただの素人が付け焼刃レベルでインストールされた知識に惑わされなくても良い。万一ボク自身が今の身体を放棄するとしても、そんなことは他者を巻き込んだりせず勝手にやりますので。他者は今だってどこまで行っても他者。
そんないい加減さの下、ボク自身の理想たる世の中がやってくるのも心待ちにしつつ、今のリアルワールドと、ワイヤードと、自分が受け入れた玲音と、繋がったり切断したりを繰り返しながらボクはのらりくらりと過ごしています。

作った曲の技術的な話

lainが好きだし、今ならlainをイメージした曲だって作りたい!ボクが作るんだったらPS音源 (SPU) で!
……とはいかないのがチップチューン。
何しろPSやSSの世代となれば、当然ながらBGM再生は既にCDDAが主流ですし、SPUにしろADPCMの音質は結局CDと実質差がありません。
ワンランク下げてSFC音源 (SPC700、SPUとの関係は今ならご存じの方も割といらっしゃるでしょう) にしようかとも思いましたが、本格的に音作りを始めようとした矢先、そもそも既存の音色を主軸に据えられてしまうのが自分の手にはまだまだ余るのだなあと痛感。
そんな流れを経て、OPM + MSM6258 (4オペFM8音+ADPCM1音、デフォルトのX68000) 構成準拠というPSとは何の関係もない構成になりました。
そもそもFC音源の基本4音から作曲を始めた身にとって、サンプリング音源を1つ自由に使えるだけで時代の進歩を感じさせるレベルなもので。
FCは素で量子化ビット数6bitのDPCM、仕様の隙を突いた裏技的な手法を使えば7bit PCMが再生できます。それを「正直FC音源を謳ったチップチューンならなるべく避けるべきだよなあ」と見ているチップチューンメーカーの端くれにとって、M6258により再生できる12bit相当のADPCMはどれだけ良い音であることか (実機では有志が制作したソフトウェアの利用や改造によってPCM部分の性能を向上させることも可能ですが、チップチューンでそれをやるのは個人的に特例の範疇) 。
M6258に合わせる意図で劣化させたサンプリング音を聞いた時は「これこれこのくぐもった音だよ!」と思ったのに、いざマスタリングまで済んだ曲を聞いてみたら「……鮮明では!?」となったほど。
あと、そういえばこの辺りでffmpegとかも普段あんまり使わないオプションを利用したりしました。ダウンミキシングの機能もちゃんと充実して……というか7.1chにすら対応してるとは思わなかった。そんなオーディオ環境は流石に持っていないので……

まあそんなこんなありましてできた楽曲『Identify Me』。
lainについては現在2次創作が公認されているワケですし、今回は楽曲のDLも可能にしてあります。
とは言えボク個人、1次創作はともかく2次創作そのもので金銭をいただこうとは思いませんので、フリーダウンロードできるようになっています。
というワケでもし宜しければ、ぜひお聞きくださいませ。

TLC · Identify Me

ダウンロードはBandcampまたはBOOTHからどうぞ。
Bandcamp: https://tlcmany.bandcamp.com/track/identify-me
BOOTH: https://tlc.booth.pm/items/4369633

終わりに

せっかくTTLがあるワケだしlainでももうちょっとちゃんとした2次創作がまたできたら、とは公開当初の2019年時点で既に言っていました。
あれから早3年……えっもうそんなに!?と驚きは隠せませんが、lainでもまた1つ2次創作ができて良かった。
そういえば多分これを公開する頃には楽曲のサムネイルも変わっているハズですが、絵的なセンスは壊滅的ゆえおそらくいつものアイコンにちょい足しがなされている程度になるかと思います。
そこら辺もいい加減で良いであろうところはいい加減なもので、どうかご容赦を……(小声)

Written on December 4, 2022