物語に充満する空気感をも「客観的に見て」いる視点:『しょうこセンセイ!』24話

友情。
現実的に考えてしまえば、その手の概念って結構甘々です。

24話より

そんな良くも悪くも甘美なるワードに目を輝かせるしょうこセンセイの愛苦しさは、一旦置いておくとして。

悲しくも綺麗事だけで構成されてはいない世の中には、冷え切った視点をもつ人間だっている。
そういうディティールをきちんと描けばこそ、架空の世界におけるリアリティは奥行を増していくものです。
じゃあ『しょうこセンセイ!』の優しい世界にも、ちょっと待ったをかけてくる登場人物がいたって良いじゃない。
……実を言えば24話にもなってこういう回が来るとは思ってなかった。

というワケで、この記事では『しょうこセンセイ!』24話で新たにフォーカスされた加藤さんを主軸に据えてアレコレ感想を。

「見ための特徴はない」加藤さんの内面的な特徴

先に述べた『しょうこセンセイ!』の優しい世界にちょっと待ったをかける枠。
そこに入り込んできたのが、加藤めぐみという生徒でした。 個人的には、作者・なじみ先生の登場人物紹介を見た際、割かし「えっ……?」と思った人物です。

見ための特徴はないって、特徴がないのが特徴、みたいなゆるっゆるの紹介されるんだ……

って感じ。
ですが彼女、今回その内面が描かれたことで、一読者の視点では群を抜いて大きく存在感を増したと言えます。

元より『しょうこセンセイ!』の空気感は、概ね理想を前面に押し出した格好で描かれてきていました。それは人間関係についてももちろん言えることです。
主人公であるしょうこセンセイは生徒にも同年代の友人たちにも好かれ、先生や大人たちの間でもあたたかく見守られていて。
生徒間の交友にしろ、ムードメーカーである坂下さんが比較的高確率で登板するなどの要因からか、基本的に大きな軋轢とは無縁で。
しょうこセンセイを良く思っていなかった頃の立花さんや、はっちゃけた先生方に雷を落とす井伊校長など、必要性や必然性に応じた例外はあるものの、プラスに扱えない空気は大人組(特に余市先生や佐久間さん辺りが顕著か)の悲哀として物語の外側に追いやられている傾向が非常に強くあります。

加藤さんはその中にあっても揺るがない我をもち、生徒同士の友情とやらへの疑問も、迷走する彼女たちに対する批判的な意見も投げかけた
しかも相手は、ともすれば他人を自分のペースに引き摺り込みかねない勢いすらある坂下さんと矢野さん。
それほどのドライさだけでも、『しょうこセンセイ!』の世界においては充分際立っていると言える人物です。

「冴えない」という自己評価と、冴え渡るアイデンティティ

しょうこセンセイは加藤さんを「学級会議の時とか全体を客観的に見て発言していますし 縁の下の力持ちっていう感じ」と見ていました。
物事をフラットな視点から見るのは、自身を「冴えない」と評しもするめんどくさがりな彼女の癖であるワケです。
でありながら、それが『しょうこセンセイ!』全体の空気感をも俯瞰し得ることに繋がっている。即ち、メタ視点で見た時にそれだけのアイデンティティを自ずから放ってしまう。彼女はそもそもそういう立ち位置にいるのが見えてくるんです。
こうも重大な役割のある人物を予め仕込んであったことに、ボクとしては脱帽する他ありません。

かと思えば内申点を気にしたり、坂下さんにその図星を突かれて禍々しい笑顔へと変貌したり。
人間臭さの観点で言っても生徒中トップクラスなのが、またニクい。

極めつけは、なじみ先生からなされていた登場人物紹介の件。
自己評価は「冴えない」。しょうこセンセイ曰く「縁の下の力持ち」。
今なら首を思いっきり縦に振って頷けます。
「見ための特徴はない」、それはまさに「特徴がないのが特徴」と言い換えて差し支えない紹介でした。
ただしそれは結果として、同時に「読者の視点においてまで控えめな特徴とは言ってない」ことにも繋がっていたと24話を見て感じています。ビジュアルにも特徴の多い『しょうこセンセイ!』登場人物の中で、容姿の面でさえ自他の評価と呼応するように現実的な外見をしているんですし。
人物紹介なんですから、当然と言えば当然です。でも、ボク個人はまんまと術中にハマっていたワケ。
その上そんな人物が、ここまで現実味を備えているパーソナリティときたもんだ。

オチを見れば今回にしたって優しい世界で、加藤さんも友情の輪に加わった形ではあります。
ただ、そこに『しょうこセンセイ!』の穏やかな空気感が損なわれない範囲でメタ視点におけるプラスアルファの説得力を与えたのは、やはり作中において稀有な立ち位置にいる加藤さん自身の功績と結論づけるべきでしょう。
目立たないことが結果的に目立つ格好となった人間臭い人物。
こんな子をしれっと放り込んでおいて頃合いを見計らい丁寧に描き切ってくる『しょうこセンセイ!』、何度も言っていますが全く以て只者ではない。

前フリの回収と新たな前フリと

ここまで一切話題に出せてなかったモニュメントの件に枚方鉄工所が一枚噛んでたとか、既出の舞台背景をさらっと拾ってくる辺りも上手いんだよなあ、『しょうこセンセイ!』。
しょうこセンセイたちの友情の残影を突っ込んできてるのは、逆にこの先活きてくるポイントでしょう。そろそろ2巻(に収録されるであろう)分のエピソードを総括する時期だもんなあ。まあもっと先を見据えてる可能性もあるとは思いますが、どちらにせよ次への仕込みまで万全ですね。作中視点で言えば今回の一件はこの影を見出したしょうこセンセイの功績も当然大きいですし。
サブタイでは「強引グマイウェイ」が好きです。
そして毎度のことながらしょうこセンセイは今回も可愛い。ずんぐりむっくり感のあるデフォルメ肖像画とそれを目の当たりにした本人の顔(周囲や読者の視点じゃそれもまた魅力的なんですよね)、自分を象ったモニュメントを空想してうっとりする表情(ちょっとだけだらしなさが窺える気もした)、友情に目を輝かせる一幕(ラストにして本記事冒頭の前フリ回収)。

Written on February 19, 2020