1+1=1であり、2+2=1になる:『スローループ』13話と14話と……
スローループ、14話も良かったですねえ。
そして10月に入れば2巻発売ときらら展大阪での追加展示。
2巻もそうですし、ツイッターでは複雑と言っていた追加展示のほうだって言うまでもなく楽しみなんです。大阪ならではの要素になってしまったのが複雑なだけで。
だって、ボク個人としては20周年に同じようなことをやったとしても間違いなく参加するだろうと確信がもてる作品だから。
そんな、今日発売のフォワード最新号ではめでたく表紙を飾るにも至った本作の話を、今回は1巻の紹介記事ぶりに再びしてみようと思います。
14話のネタバレもがっつりありますので、まだご覧になっていない方はご注意ください。
と言うか正直に言えば、先月感想を投下する余裕がなかったので、それも込みでまとめるのがメインです。
1+1=1、な13話
ツイッターで再三ポストしていた所感として「2巻分のエピソードは家族以外の部分でも釣りを通じた人の繋がりを描いている」というモノがありました。
藍子ちゃんも(微笑ましいことに魚に対しては及び腰でしたが)、「やりたいって思ったこと、ちゃんと選んで」と二葉ちゃんの嗜好を受け止め、その仲良しぶりを見せつけてくれました。ちゃんと自分自身の指向とは別括りで相手の嗜好を肯定する姿勢、ボクが小学生の頃にはきっとなかったなあ……
そして他方、そこから更に姉妹の在り方にも踏み込む話の濃厚さがスローループの強さの1つで。
9話でフリが入れられていた「姉妹なのにわかんないもんだ」という一花さんの寂しさを吹き飛ばす、二葉ちゃんからのプレゼント。
身近な人間関係の苦悩をちゃんと描いているからこそ、二葉ちゃんから一花さんへの「いつもありがとう」なんてありがちな言葉も響いてきます。直前のひよりの「一花さんがそばにいてくれるだけで支えになってたと思いますよ」もまさにその通りであって、全ては一花さんがいつもそばにいてくれることに端を発する二葉ちゃんの感謝ってワケ。
そんな一花さんと二葉ちゃんの間柄、二葉ちゃんと藍子ちゃんの間柄、その両者の根底に共通するのは「相手のことが分からなくても、分かり合おうとする心や側にいようとする姿勢は良き関係性を構築する」点です。作劇視点でも、単純に人間関係を比較する視点でも、この二つの間柄が上手くリンクしているのは上手いし旨い。
2+2=1、な14話
満を持してのフォワード表紙(1話の小春の「あなた(=ひより)が釣って私が料理するの!」を引いてるのかな)に、見ていて何かしらの行進曲的なモノが脳内にかかる元気いっぱいな扉絵。
……ももちろんですが、ボクはやっぱり物語指向の身なので今回も早々に中身へ目が行ってしまいました。
個人的に特筆したいのは、ちゃんとした一誠さんとひなたさんの会話が見られた点。
不思議なことにこの2人、これまで真面にやり取りを交わす場面が本編内で描写されてこなかったんですよね。
だからこそ、親同士であり今は夫婦になった2人について掘り下げられる未来を展望したくなり、それが高じてボクは1巻読了直後に『遠く遠く、離れていても』を執筆したのでした。
と言うのも、一般論として、健全な家族は構成員全員がそこに内包されている全ての関係性を是とするところから始まるハズで。
それは海凪家が機能不全に陥るかも、とかそんな暗い予測でも何でもなく、どんな家庭にだってあり得る明暗の可能性に直結する問題です。
後ろ暗さのない家族になるためにもやはり相互理解の姿勢は重要であって、その一環として両親(況んや海凪家は母子家庭と父子家庭が1つになるというちょっと特殊な状況でしたから)の思いをちゃんと聞いておきたいというのは、家族として大いにあり得る望みだろう。そんなところから、このSSは生まれています。
加えてもう少し突っ込んだ話をすると、先のSSにおいては一誠さんもひなたさんも「1人の人間である自分が感じる寂しさ」を理由の1つとして再婚したんじゃないかと無根拠に勘繰ってしまったがために、ちょっと一誠さんが仄暗い一面を覗かせてしまったんですが……原典では果たしてどうなっていることやら。
今回読んでいて、この先二人の親にもタッチされる可能性を感じたので(13話での「お盆で帰省」の流れからしても、両家のルーツが描かれるのを望めますし)、改めて気になるところ。
他にも指摘したいポイントをいくつか。
今回は、ひよりがついていなくてもフライでちゃんと魚を釣れるようになった小春(P22と23全体を通じて迸る小春とひよりの緊張感はお見事)と言い、1巻分のエピソードでの出来事もちゃんと影響してか家族として順調に距離が縮まってきた海凪家と言い、ちゃんとゆっくり優しく進展していく世界なのもスローループの好きなところの1つなんだよなあ、と思わせてくれる回でもありました。
一方で明かされない謎もまた1つ、新たに出てきました。ひなたさんの指輪についてです。単純にひよりたちの憶測で終始して今後は描かれない部分なのかもしれませんが、一誠さんとひなたさんのやり取り同様に、こういうところは描かれないなら描かれないで考察も捗るので個人的に注視しておきたい。
そして「おっ」と思ったのがP16-3、二葉ちゃんからもらったペンダントを自慢する一花さん満面の笑顔。これまでの肝っ玉溢れるような笑顔じゃなく目を細めた優しげな微笑み、とても綺麗だ。
そして待ち遠しい2巻
と言っても、まとめとして言うことはあんまりないくらいです。1巻の時と違って今はちゃんと毎月追っ掛けてますからね。
なのでオマケに1つ、小春のお話を。
ひよりの興味が自分から逸れていると割と分かりやすく不満そうな表情を見せる小春ですが、これって考えてみたら無理もないことなんですよね。
だって、今も昔も小春にとってきょうだいは一番近しく掛け替えのない存在なんですから。
この点も、海凪家の両親やひなたさんの指輪問題と並んで注目しておくことにしたいと思います。