創作者たちの悲喜交々:『ななかさんの印税生活入門』に息づくメッセージ

「人類はひとりでいたくない欲がとても強いので抗えないんです 本や小説といったものも それを誰かに見せたがるのも 結局同じ根っこのものかもしれません」

(出典: kashmir “ななかさんの印税生活入門 3巻” 芳文社, 2019年, P96)

もう師走……今年もあっと言う間に終わってしまいますね。皆さん創作してますか?
している方も、してない方も、どうぞよろしくお願い申し上げます。当エントリは まんがタイムきらら Advent Calendar 2021 12日目の記事です。
書くネタが浮かぶより先に見切り発車で参加表明して、その後書こうと思ったネタはAdC期日よりも早く投稿すべきと思わしきタイミングがやってきたため即放出。それを2回繰り返し、執筆は混迷を極め……てもいないか。
まあそんなこんなありつつ、今年はボクもまた新しい分野の創作に手を出したのもあり、久々に『ななかさんの印税生活入門』のあれこれを書いてみたくなりました。

1巻表紙

本作はボクにとって、とても大切かつ思い出深い作品の1つです。
それまできららとの関わりは、MAXを散発的に読んだり、注目作品を単行本で追いかけたり、アニメを追いかけたり……程度のレベルだったボクが、「好きなタイプの作品に (他誌よりも比較的) 巡り合いやすい場」としての意義を見出し、ちょっとだけ偏重し出したきっかけであったり。
「kashmir先生って前に見てたけど今またきららで描かれてるんだな……あっこの作品良いかも」と、ボク個人にしては極めて稀な “作品だけでなく作家まで含めて気に入った” 一例であったり
ひょんなことから2次創作小説を書き始めたボクが、これ以上ないグッドタイミングで出会えて、創作活動の方針に、本作でなされる描写を参考にしたりしなかったり
そういった諸々を抜きにしても、本作に関しては紹介記事をちょうど3年前のきららAdCで書きましたし、3巻発売に際しても考察 (に含めて良いと思う) 記事を書いたほど、推薦できる作品だったりするのですが。
その本作には、創作をしている方ならばこそ刺さるであろう言葉も数多くあります。今回ではその中から、これまでの記事に出してこなかったいくつかをご紹介していこうかと。

5話

「ほんとに書きたいものじゃないと続かないんじゃないかな」

本作主人公である連光寺ななかは「自身を放りがちな漫画家の両親を作家として大成することで見返したい」という外的な動機で小説執筆を始めており、ラノベにおける流行や読者のウケに拘る場面がしばしば垣間見えます。そんな彼女と出会ってインスパイアを受けるようになった美術部員の聖坂まいが、自身とかなり対照的であるななかとしばらく創作談義を共にしてみての一言。
求められるものを理解するのも重要ではありますが、それをとことんまで追究するのは1つの資質だな、と感じます。おそらく出来る人はそう多くないでしょう。
ボク自身「今これめっちゃ作りたい!」と思えた日と比べてそれ以外の日は手の動きがどうしても鈍りますし、無理に作ろうとしても自分の納得できるクオリティにはまずならないのが常であるほど、自分の「作りたい!」を創作においては重要視しています。そんなレベルなので、正直受け手のウケなどはあまり気にしていません。正確には「気にするリソースがない」かも……

閑話休題。
これに対して、美術部顧問であり登場人物中でも作家歴の長いほうに位置する永山先生は、こんな言葉で返しています。

「最初は人真似でも 一本最後まで作り通せば自分のものになってたりするもんだよ それに書いてるとそのうちいやでも『自分』が出てきちゃうものさ 創作ってのはね」

20話

「実際誰かにほめられるのって大事だからなー 何も言わなくても描き続けちゃうお前みたいなやつでもさ」

ななかさんたちとの出会いや生徒会との接点を経て、描いていた絵が人目に触れる機会を得たまいさんに対する永山先生の談。
この言葉だけ抜き出すと様々な意味合いで語れると思いますが、文脈に則して言えば「創作をしているならいずれ『見てくれた人に感想を言ってもらう』のも1つの経験になる」ニュアンスが強い印象です。
(不正解はあるケースもありますが)正解はあると言い切れないほどに自由なのが創作であり表現という行為であるからこそ、受け手の目は指針として有効になり得るのだと言えるでしょう。
まあ、あまり固執しすぎると作り手としての首が締まったりもする諸刃の剣なので、現実ではどんな創作者であれ概ねバランス感覚に苦労している印象ですが……

「新しく一歩踏み出すのはほめる人がいた時だったりするんだよな あいつとかさ」

こちらは上記発言に続いて、小説をWebサイトへ投稿するようになったななかさんへの言及。
コンピレーションアルバムへの参加を皮切りにチップチューンを作曲、公開し始めた今年のボクには欠かせない言葉です。
参加楽曲制作より前から別用で作っていながら現時点でも未公開の曲を、音楽の受け手としてぴったりな方へ突発的に投げつけたところ、その方から好感触を得られ、それが今色々と曲を作りたくなっては細々と投稿している自分に繋がってもいる。当時のボクは我ながら面白いことをしたんだなあ。
……というか思い返せば、文章を書く趣味ができた時の逸話もきっかけとして似ていたかもしれません。つくづく不思議なもんだ。

29話

「けど他人の言うこといちいち聞いてちゃだめなんじゃない? 評価とか数字とか気にしすぎるとよくないと思うよ まずは登場人物(このこ)がどうしたいのか それが大事なんじゃないかなあって」

上と相反するようですが、感想の捉え方におけるバランス感覚の重要性を裏づける発言。小説の一部分に賛否双方のコメントが寄せられたななかさんが、幼馴染で創作をしていない側だったみきちゃんから受けた言葉です。

ちなみに、ななかさんが部長を務めるようになった文芸部で、みきちゃんはこの後しばらくして、学園祭向けに発行する同人誌の編集を担当しています。様々な創作者と縁ができたのも手伝ってかどんどん片鱗が出てきているのかな、と新たな気づきに少し嬉しくなったり。

34話

「作家は自分のメンタルがすべてだから 精神の安定を保つためにたいていのことは犠牲にするくらいでいいのよ」

趣味で創作をやってる程度のボクも、その通りだと思います
(自分自身何度か周囲に迷惑をかけて都度謝ってきてるなあ……と顧みたりしつつ)

ちなみにこれはななかさんの母親から飛び出た言葉。

終わりに

年の瀬に創作の話題と言えば、今年末はC99が開催されるようですね。

33話より

こちらは本作33話より。これをご覧になる中にサークル参加の方がいましたら、皆様どうか順調に進捗を出せますよう。
そして個人的にも「本当に開催するのか……?」と懸念を抱く程度にはまだまだ予断を許さない状況ですし、何卒健康管理にもお気をつけくださいませ。

いやあしかし、やっぱり何度読んでも楽しいものは楽しいですね。
kashmir先生できららと言えば、連載期間の長さもあり『○本の住人』が著名かと思いますが、個人的には本作の印象が強いところで (これでも一般向けの他作品なら『百合星人ナオコサン』『てるみな』などの空気感はかなり自分も肌に合っているほうです) 、以前絵を描いてみたいと感じた頃初めてペンタブを購入して真っ先に選んだのも本作主人公のななかさんでした。
冒頭で述べた通り、『ななかさん』に対しては個人的な思い入れもかなり強い。kashmir先生の作品に通底していることのあるアンニュイさが要所でダイレクトに伝わってくるからなのかな、と今では思ったりします。
嘗て紹介記事では『おくのほそ道』からの引用をタイトルに据えましたが、それは実際作中でも旅に準えた形容が現れていたゆえ。一度切りの青春で創作に打ち込む旅路を行く皆の、どこか刹那的でもある喜怒哀楽こそ、ボクのようなタイプを感傷に浸らせてくれる謂れなのかもしれません。

最後に、今回は何となく、創作してないほうの方へ向けて本作28話からもう1つ印象的な言葉をご紹介。
小説を書かないまま文芸部所属となったのを気にするみきちゃんに、生徒会長であり同じく文芸部所属となった先輩作家でもある、かなでさんからかけられた言葉です。

「気にすんなー 書きたくなったらなんか書けばいいよ 作家なんて死ぬ前最後の数日でもいきなりなれる数少ない職業だよ」

Written on December 12, 2021