「百武照は百武照」:『なんどでもゆめみてる』各作品と全体の所感
……本当に何度でも言いますけど、これでもボクは『ステラのまほう』を結構複雑な思いで見てるんですよ?
何でそういう作品の記事を連続で書いてるのか、自分でもよく分からない。
まあ強いて言えば、やっぱりボクにとってのステまは識者の反応や2次創作まで込みでの面白さなんだ、と考えておくべきか。
そんなワケで、ボクも参加させていただいた百武照さんの合同誌『なんどでもゆめみてる』の感想を書いていきます。
注意点として、感想だけあって当然書いているうちに勢いでネタバレする可能性が甚大です。合同誌をご覧になっていない方は主催・藤秋すばるさんのBOOTHからどうぞ。
間違いなくいないとは思いますが、こんな感想記事から先に読む物好きな方には漏れなく(C96の3日目のボクのように)イベントに参加したその日一番欲しかった物が手に入れられなくなる呪いをかけておきます。手元にないならまずは合同誌を読め。
尚、各作品に作者の方をお名前とツイッターIDで併記しますが、そのうち前者については敬称略とさせていただきたく。
イラスト:Martin (@martinreaction)
一目見て「ほう……」と思ったイラストです。RTでイラストが回ってくるのをよく拝見していますが、こうもダークな雰囲気のイラストを見た覚えはなかったので。
まさかと思って調べてみたらこれ、きらファンの衣装だったんですね(もうやってない)。元々のやつを見ると爽やかで可愛げなだけに凄まじいインモラル感。服の乱れ方や目が特に。
何となく、どうしようもなく道を違えて戻れなくなってしまった(MAX2019年8月号掲載回の池谷乃々の、その先感とでも言えましょうか)感あるなと。
元々どこか独創的で幻想的なキャラの描き方だと感じていましたが、気色の異なる今回もとても心に残っています。
イラスト:めめ (@Milktea900ml)
「ザ・百武照」を見せつけるにはこれ以上ない印象。マジシャンはエンターテイナーな部分がゲームクリエーターとも共通してますもんね。
マジシャン百武照はハットの中に何を抱えているのか。あるいはカーテンの向こうに何を隠しているのか。
仮面にしたって、1枚だけじゃ飽き足らずたくさんつけてるんじゃないか。
これ一枚にいくらでも暗喩が読み解ける気がする。
イラスト『Marionette in The Mirror』:染井本夜 (@Biblio1719)
前のイラストが百武照さんを直截的に描いた物なら、こっちは百武照さん本人と彼女のエンターテイナー性、それぞれの負の側面を融和させた感じがしました。
鏡の向こうで笑顔の人形と鏡の手前でのっぺらぼうの本人、その距離感の遠さに理想と現実のギャップを感じずにはいられません。
オマケにこれ、持ち手が十字架になってますか? だとすれば何とも業が深い。百武照さんの。
イラスト:A歌羽.zip (@Utha_art)
百武照さんも1人の女の子ですからね。そして作中でも言及されてる通り美人なハズなんです。暗くて物憂げではあるけれど、どちらかと言えばそういう地の魅力を描いてるのかなーと感じます。瞳に光を映してますし。
でも一方で、見てると吸い込まれそうな目をしてもいらっしゃる。
目にする光と抱える闇の間で、彼女は何を考えてるのだろう……
ゲーム『ゆめみてるながれぼし』:〜しょしぃる (@taksaro / プログラム)、ゴートリング (@goat_ling / ドッター)、RuluMochi (@Rumoi_Mochi / サウンド)
この合同誌で唯一ボクがダメージを食らった作品です。オマケとして先んじて公開されていたテーマソングを一聴したらそこで撃沈しました。曲が優しすぎる。
ゲームそのものは公開待ちで、(本記事を完成させる意味でも)プレーできるのを心待ちにしていますが……今のボクは百武照を動かしたくねえ……
漫画『無題』:閑咲婀萠 (@ametie_k3ki_)
閑咲さんもやはり普段のイラストや漫画を割と拝見していて、明るかったり楽しかったりな物が多いので、こういうディープな話が来ると意表を突かれた感はあります。合同誌の主軸が主軸である以上多少の覚悟はしてましたが……
自分にも何かできると思いたがりながら他人に助け船まで出してしまうのに、結局自分には自信をもてないまま。そんな百武照さんがこの上なく愛おしい。
最後の1ページ、ミイラみたいな異彩を放つ百武照さんの”Bad”性たるや。
ただ一方で小ネタが清涼剤になっていたりもして。目覚ましの音とか、カーテンの向こうの”あの文字”入りのお日様とか。
漫画『照照坊主』:閑咲婀萠 (@ametie_k3ki_)
で、いつものノリに比較的近しいと思われる漫画がこっち。
ツッコミが追いつかない。楽しい。そして布田裕美音。
まあ、百武照さんが途中で首吊り(!?)しようとしてる辺り、いくらギャグテイストになろうと前の漫画の空気を掻き消せてない感があるのもまた一興。
小説『2番目に楽しかった場所』:すばるん (@subarun0415)
この合同誌で一番あたたかい話を上げるならこれだと思います。
まさに最後の一節に関わることですが、2番目に楽しかった場所を思い返すこと自体、輝ける未来を「ゆめみてる」のと表裏一体ですし。その未来が現在になった今、どうなっているかはさておいて。
何があったかいかってそもそもこのお話の百武照さん、本編よりずっと優しさが強調されてない……?
もちろん、妙な裏がついてきてるとかもなく良い意味で。
考察『Undefined Mirage』:A11 (@a11urrorg)
合同への参加候補作品を2本書いたボクが「『Psilanthropy』で参加してよかった……」と心底ほっとした、詳細で纏まり良く分かりやすい考察です。
というのも、ボクのもう一方の候補作品のベースたる考察がこれと一部酷似してるんですね。で、より遥かに詳しく百武照さんの言動や内面を追ってるおかげで、ある意味ボクとしては冷や汗物でした。
また、仮にボクの考察が真相に近いモノだったとしても、反証の量と質でその作品では太刀打ちできなかったので。
ボクもステまに関してはまだまだだと、考察畑にいる身として読み込みや纏めの巧さに感服しています。
小説『シュワルツシルト』:坂西原貴 (@hirune101)
個人的「文章表現がパワフル三銃士」の一角。
この作品に感じた物を端的に言えば「百武照さんの諦め」という一言に尽きます。
で、そのほろ苦さがめちゃくちゃよく出てるもんで、読んでて心地が良かった。要するに表現が実感籠ってるし綺麗。
百武照さんがどこかのタイミングで心折れた日、こんな風に時間を過ごしてたんじゃないかって気がする。
小説+挿絵『わるいゆめ』:神原ハヤオ (@kanbara_s)
夢を象った半回顧……のようにも感じました。でも後半の目紛しさからすれば間違いなく夢ですね……
夢なだけに、百武照さんが介在することなく生まれていた「ゲーム制作部」と実際のSNS部の差が、翻ってSNS部にあった彼女の存在意義を示していて、これはご愁傷様としか言いようがない。
そして「情けは人の為ならず」が今の百武照さんの(本人も無自覚でいる)行動指針なのかなと勘繰るようになったボクには、今の彼女がかつて自身の拾ったみたらしにぎりぎり繋ぎ止められているように思えてきます。
小説『人間関係』:星見秋 (@himonohsm)
個人的「文章表現がパワフル三銃士」の一角です。生半可な心構えで読んでいたら強引に心を引き摺り回されて血みどろにされたハズ(星見秋さんご本人にもこの通りに伝えた)。この小説には逆立ちしても勝てる気がしません。
百武照さんの悔恨と、本人も気づかない救えなさがここまでなみなみ注ぎ込まれていると清々しさまである。こういうのを見るとついワクワクしちゃうんだよなあ。
葬式の「夢を見るだけ」なのは、百武照さんらしさの1つの極致って感じがする。
あと、食べ物は大事にしましょう。これは戒めです。
小説『アーティファクトの亡霊』:くすく (@xfiveone)
客観的に見て闇の方向まっしぐらな百武照さん、乃至てるかよが、それでもちゃんと一筋の光を目指している。
そして「ああ、百武照って道化師だったなー」と思い出させてくれる辺り、ある意味どこか安心感もある。
藤川歌夜ちゃんに言われたからという理由重点でサポートに甘んじるまでになっていては、やはり彼女は救われないのだと思います。
でも2人が揃ってその方向を向いたのはお互いさまなんですけどね。共倒れ一歩手前、風前の灯って印象を受ける作品でした。
漫画『楽園追放』:草薙さんく (@sankuroraido)
ここで入ってきた漫画がギャグなのは面白すぎるしズルすぎる。
でもこれは百武照さんの悪癖が最初から最後までクライマックスですね。こんなに軽快なノリなのに。やっぱり救えねーじゃねえかコイツ!
その思考回路を悪縁ありの藤川歌夜ちゃんと並んで見透かすのが、SNS部関係者一の猛者であるあや先輩なのがツボです。ボクはあや先輩を気に入ってるので。
一方で一番切実に望みを語ったハズの村上先輩はちょっと不憫……
小説『Psilanthropy』:らむだきー (@s6jrmany)
……さて、以下は本作に関する作者視点の制作後記です。
自分の創作物を解説するなんてダサさ極まる真似だとボクは思っていて、実際公開後にあれこれ言いたくはないのですが、失敗を次作に活かすのも重要である以上は、自覚済の反省点を列挙するという建前でここに記しておきます。
本作には2つ問題点があり、そのうち1つはタイトルが直球すぎる点。正直識者がその意味を解してしまえば本作の展開はバレバレ。
中学時代に知って、いたく気に入った単語を使おうと思ったらこれだもの。
それともう1つは、本作における2つの狙いが互いに悪相性過ぎた点。
本作は第三者から見た百武照を表現すると同時に、考察として「百武照が本編でたった2回だけ言及した『友達』に適合できるのはどんな存在なのか」を探求する意味合いがありました。その結果行き着いたのが「ゆっちん」。
でも、肝心の「ゆっちん」を一人称視点にしてしまえば、その存在感を際立たせることは難しくなる。
これらの構造的欠陥に途中で気づきながら、今更後退できまいとしてボクは書き進めてしまったのですね。
とりわけ考察部分に関しては読んでくださった方もなかなか気づかなかろうと自覚はしていて、やっちまったなーという念を隠せずにいて。
ただ一応面白いと言っていただけたり、本来感想を必要としないボクが感想をいただけてすらいるので、まあ多少心に残していただけてるかな? と思ってはいます。
「ゆっちん」の最後の台詞なんかは、今見返しても我が作品ながらガッツポーズしたくなる。
小説『Stella Not Satisfied』:堅魚 (@kengyo7)
前評判から曰くつきだった噂の大麻SS。ワードだけ聞いて楽しみだなーと気楽に構えていて、拙作と隣り合わせだと知った時のボクは「ゲェーッ!」と一声。
しかも予想を優に下回るレベルで救いがなく、これもまた百武照さんの業が滲み出た作品だなーと感じ入るばかりでした。その癖、やっぱりある意味彼女は生への執着心が強すぎる。
一方の藤川歌夜ちゃん視点でも、因縁のある相手の人格を貰い受けるなんて散々だろうな。それともまさか「何でもできる」からハッピーなのか。色々皮肉は利いてて好き。
……ところで、作中の大麻そのものの描写ももちろんなんですが、大麻で人格にまで異常を来すって実際にあるんですかね。どんだけ摂取したんだ?
小説『サラウンド・アイ』:nora1 (@pripin789)
ボクの好みで言えば合同誌中No.1な作品。
ごくごく普通のありふれた環境から誕生した、もしかすると異物かもしれないはぐれ者。一見普通に円満な家庭であるハズが、最早誰がどう足掻いても取り返しがつかなくなったこの状況。なかなか現実味もあって最高に素敵です。
一方で本当に原作に続いていてもおかしくない細やかさの利いた一幕も効果抜群で、そこがまた心をくすぐってきて。
星ノ辻の先輩と他愛ないやり取りをする百武照さんの視点に、しっとり優しいジメジメ感があってしみじみ。
漫画『クローノンを歩く』:藤秋すばる (@f_subal)
主催である藤秋さんの作品がこれじゃなかったら、ボクはおそらく感想を記事にまとめるまではしなかったと思う。そのくらい合同誌の中核としてカッチリハマってると感じた作品です。詳しくは後述。
しかしコマ割りや構図が本当に良い……漫画に関してはボクは読んでるだけなので技術面がさっぱりですが、アップの挟み方なんて一種の芸術感さえ覚えてしまって。
SNS部自体がどれだけ百武照さんの影響力で成り立っていたかはさておき、彼女が後輩たちに爪痕を残してしまったのは明らかで。話のみならずみんなの表情と振る舞いが、それを雄弁に物語っていて途方もなく美しくて。
そして「百武照の根本」を見つめ直さざるを得なくなった百武照さんが全てをやり直した結果、次は果たしてどこに向かうのか。そこにはある意味『ステラのまほう』そのものらしさまで包含されている気もしました。
ちなみに藤秋さんが以前「本人を描かず周囲を描く物語が好き」とお話されていたのをボクはよく覚えていて、それを思い返すと更に感慨深くなります。
小説『宇宙人の日』:MNukazawa (@MNukazawa)
個人的「文章表現がパワフル三銃士」の一角。
抜け目のない情景描写と心情表現から、百武照さんの異物感がひしひし伝わってきます。
なまじ物語が何気ない、ともすればハートフルと言ってもいい日常で構築されてるだけに、それがより強調された形。
差し出がましいと承知で1つツッコミを入れるとすれば、一人称視点の藤川歌夜ちゃんです。自分自身が既に「宇宙人」の毒牙にかかってもう長いハズなのに、たまちゃんを心配してる場合か。
小説『ボーダーライン』:いたちか (@nkmkinak)
てるかよが苦手なのにこうしていくつも合同誌のてるかよを読んできて、その根本にある「吐き気を催させる百武照の一側面」にこの作品のおかげでようやく気づきました。
藤川歌夜ちゃんは百武照さんが別に何でもできる存在ではないと分かっているし、なんなら(少なくとも作中では)一番初めに知らされている。にも拘わらず、手を伸ばしたがっている一方でその努力を積極的にしない彼女に、多くを期待せずただただ情で寄り添ってしまう。
この作品の百武照さん、それを手玉に取るかのように曲がり切った受け入れ方を突然藤川歌夜ちゃんにしてますし、流石中途半端……いや、それともここまで来ると故意犯?
小説『hysteresis』:asakusa (@asakuso1919)
一読して「発想の勝利だ」と思わざるを得なかった作品。合同誌で明確なifってあんまりない気がします。
でも、数多くの作品に触れてきた末に原作へと立ち返ったような安心感がここにはありました(原作の安心感、ってのが肝です)。
それはifだからってのもありましょうが、ただ原典が意識された分岐の結果を描くだけでなく、冒頭にしっかり原典の一部を文章化して組み込む配慮などもある辺り、ともすれば2次創作者の手前勝手さが強調されるカテゴリであるifモノの中でも、一種の模範だと言いたくなります。
自分の矛盾と共存できている分だけ逆説的に然るべき方向へと向かっていけそうなこの百武照さんには、クッションを隔てて感じた村上先輩の体温を自信としてバネにしてほしい。できんのかな。でもボクはそう思う。
終わりに:『クローノンを歩く』を通して全体を見る
原作で百武照さんの真相がまだ明かされてないのもあって、媒体や作風の違いを考慮しても当人の描かれ方がバラバラなんですよね。振れ幅が大きい。
そんな合同誌において、主催である藤秋さんの作品にはどんな意味があったのか。
結論から言うと、この作品が合同誌に参加した全作品の「百武照」を許容・包括する役割を担っているのだとボクは思います。
あの中で百武照さんは記憶喪失になっており、パーソナリティのほとんどを無くしている状態です。
で、その結果として残ったのは「百武照」のパーソナリティの中でも非常に原始的な部分だけ。
その部分を指して「照先輩は照先輩」との感想もありました。これ、ボクはめちゃくちゃ重要だと思っています。
というのも、パーソナリティにだけ着目すれば『クローノン〜』において原始回帰した百武照さんは合同誌の全作品に繋がる可能性をもっているんです。ある種の起点、と言えばいいか。
そしてこんな裏技じみた方法が成立したのは、主催である藤秋さんがこの作品を描いたことで為し遂げられた功業。
作品それぞれもさることながら、結果として全体に通った1本の筋に、ボクはただただ感銘を受けることになりました。
こんなやべえ合同誌に参加できたのは、何だかんだで本当に良かったと心から感じています。