古人も多く旅に死せるあり:シュールでリアルな『ななかさんの印税生活入門』
当エントリは まんがタイムきらら Advent Calendar 2018 2日目の記事になります。
もう師走か。今年もあっと言う間に終わってしまいますね。早い。
一年で最も忙しいとされる時期に、こんな僻地にある記事をご覧になってくださった方、どうもありがとうございます。
ADVENTARから飛んできた初めましての方向けに少し自己紹介をば。
Twitterでは「とーます・らむだきー」と名乗っている者です。だいたい「とーます」と呼ばれてます。
きららだと主に読んでいるのはMAX作品。一方Twitterの身近なフォロワーに多いのはキャラット読者なので、そっちも購読しようかと思いつつ……どのくらい経ったっけか、1年は経ってそうな気がする。
あとは本ブログでもTwitterでもpixivでも漁ってください。長くなりそうなので。
さて、そんなボクから言いたいことがありまして。
『ななかさんの印税生活入門』、面白いよ。
きららMAXにて連載、単行本は2巻まで発売中。kashmir先生の『ななかさんの印税生活入門』。これが実に面白いのです。
何が面白いかと言うと……
ストーリーも面白い。
キャラクターも面白い。
その関係性もまた面白い。
ディティールも面白い。
ハマるとクセになる。
当エントリでは、そんな『ななかさん』を紹介がてら、その魅力をつらつらと紐解きながら言語化していこうかと。
(尚、粗方書き終えてから気づいたんですが、昨年夏にも本ブログでちょっとだけ紹介してました)
ストーリーはどこか捻くれて、それでいながら真っ直ぐに
主人公のななかさん、中学2年生。彼女が一念発起、印税生活を満喫しつつ両親の前でフライドチキンをばりばり食べてやる、という目標を掲げて小説家を志す。こんな『ななかさん』のバックボーンを導入として一気に描いてのける明快さが魅力としてまず1つ。
特筆すべきはななかさんが小説を執筆し始める動機。彼女の両親は2人ともパッとしない漫画家で、その多忙さゆえに、ななかさんはあまり構われずに育ってしまうのですね。で、ななかさんはそんな両親を見返すために小説家を目指していく。内に秘めた何らかの創作世界を見てほしいとか、有名になりたいとか、直接的にはそういうのではないんです。
とまあ、こう書いていくと奇妙な感もあります。しかしその実、1つの大筋はななかさん(たち)の重すぎずゆるゆるな日常の中に織り交ぜられた、ストレートな成長物語と言ってもいいでしょう。ななかさんがWeb小説の投稿を画策するのを機に、同好の士が集まって、それぞれが思い悩みながらも創作を重ねていくその姿は必見。この辺りはディティールの項でも詳しく。
実在感があるようなないような、独特なキャラクターたち
現実感はないと言い切っても良さそうですけどね。こういうのは自分の言葉で紹介したいので、本編のネタも拾いつつご説明。
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ななか (連光寺ななか / PN: 彩乃季なな)
本作の主人公で、妙に偏ったラノベ知識が豊富な、小説家志望の中学2年生。バスケットボールを弾く感情豊かなアホ毛と、相反するようにいつも眠たげな半目がチャームポイント。上述の両親を持つものの、家族仲は割と良好。 -
みき (珠尾根みき)
ななかの同級生かつ幼馴染で、両家の距離はみきがゾンビ化したら連光寺家もアウトなくらい。サブカル知識は乏しく、一般人兼ツッコミ代表兼ななかの世話役。ただし兄がいて、その妹性たるや登場人物では一番ラノベっぽい。 -
まい (聖坂まい)
ななかたちと同級生の美術部員。すごい速さで絵を描き、小説のイラストも提供したりする。ななかとみきに度々百合を見出す(本人談)ものの、自分自身にもそう捉えられかねない相手がいることを自覚してはいない様子。 -
永山先生 (永山櫻子)
ななかたちの学校の美術部顧問。同校同部のOGでもある。ちょっと厳つい見た目ながらも優しくななかたちを見守る良き先生で、美術のみならず創作全般の心得も多分にあるしっかりした大人。 -
みゆき (春日みゆき)
6話から登場、ななかたちと同級生の生徒会役員。仇名はみゆきち。真面目で堅物、でも頑張り屋、そしてツンデレ。絵心が妙、比喩を解さないなど芸術方面には明るくない一般人2。永山先生とは従姉妹の関係。 -
かなで (馬引沢奏 / PN: kanade)
10話から登場、ななかたちの1学年先輩。生徒会室ではグータラ気味。一方、ななかも利用する小説投稿サイトで既に名が知れており、創作に関して永山先生と対等にやり取りを交わせるほどの力も持つ。 -
いろは (大栗いろは)
25話から登場、ななかたちと同級生で内気な文学少女。特に芥川作品を嗜好。アナログで書いた小説は登場人物が相次いで倒れ伏す荒んだ作風になりがち。高等部の図書館から偽名で本を借りる妙に大胆な一面も。
(22話からの引用なので、25話初登場のいろはちゃんがいません。悪しからず)
ちなみにななかさん、ビジュアル的にもお気に入りです。アホ毛と半目はもとより、タイツ着用の制服姿には思わず頭を撫でて可愛がりたくなること受け合い。
……閑話休題。
絶妙な匙加減の人間関係、どう説明してくれようか
以前Twitterでサーチをかけていて『ななかさん』を高度な百合作品と評する談を目にした際、世界は広いものだとしみじみ思った記憶があったり
ボク自身、百合に関しては幾分明確な2つの線引きがあるため、本作を百合作品として紹介することはしません。しませんけれど、人間関係の描写の魅力ももちろんありますし、何より「百合と感じたらそれは百合」なんて談もありますから、その手の見識がある方にも『ななかさん』はオススメです。重ねて言いますが、そこも含めて面白いので。
↑2コマ目右はななかさんのお父さん。
……というか自分の場合、それでなくても百合と紹介することはなかったかも。ななかさんのお父さん、みきちゃんのお兄ちゃんもいるし。
そして何よりこの項を作ったのは、連光寺親子の距離感の話をしたかったから。
前述の経緯もあって、当然ながら両親を疎んじているななかさんですが、その両親は時に作家の先輩としてアドバイスやプレゼントをします。当のななかさんも内心嬉々としてそれを受け止めており、やはりさほど憎からず思ってもいる模様。かわいい。
ディティールはラノベネタと作家ならではの思案として顕現する
小説を題材にしているため、昨今のラノベで一定程度テンプレと化したネタは当たり前のように出てきます。ただそれ以上に、よく見なくても一筋縄ではいかないシュールなネタもそこかしこに。この辺りに関しては、ボク自身何も言うまい。
そんな引き出しには事欠かないななかさんたちも、皆創作を続けながらもふと考えたりするもの。
「実際知らない人にいろいろ言われると来ます……」
(14話より、想定外の形で公開してしまった小説に関するななかさん談)
「みんな自分の好きなもの 好きな感じが自分の中にあって 自然に出せるんだなあって 他の人の絵見て思ったんです」
(24話より、ふと思い悩むまいさん談。なおこのまいさんと周囲のギャップは先んじて9話にてななかさんの胸中で言及されていたり)
「ラノベはゴミ……」
(25話より、バッサリ切れ味抜群のいろはちゃん)
特に最初のななかさん談なんて、創作やってる人の多くが通ってそうな道、という気もしなくもない。
この他、ななかさんとの直接対面を経たかなでさんも、その出会いを旅人に準えた印象的な言葉を22話で残します。敢えてこの記事では引用しませんが、大物感溢れていたかなでさんの人間味に、『おくのほそ道』を想起させるような「もののあはれ」をボクは感じたり感じなかったり。
というワケで。
ダラダラ書き連ねてきましたが、こんな感じで『ななかさんの印税生活入門』は語りたくなるポイントを上げていけばキリがなくなります。シュールネタが好きな方。人間関係の機微を楽しむ方。趣味でも仕事でも創作をしている方。読んでみるときっと楽しめますよ。
最後に、タイトルに関する注意点。