時計における数学的な正確性

「常に5分遅れている時計と、止まっている時計。5分遅れた時計が正確な時刻を指すことはない。 一方、止まっている時計は1日に2度正確な時刻を指す。さて正確なのはどちらの時計か?」っていう古いクイズがあるんですよ。 確か学校で平均について習った際の余談として聞きました (元ツイート)

このクイズが心をくすぐったので、備忘録。  

結論から言うと、想定しているのがアナログ時計かデジタル時計かで答えが変わるということになるものと思われます。

まず時間単位を、時計において最小の時間表現である秒(単位はs)としましょう。
時計の正確さを表す関数は、時計がある時刻を指したときそれが正しければ1を、間違っていれば0を返すものとします。

その上で、まずアナログ=連続分布における平均を考えます。
また、後者の時計の制約で「24時間に2度」を「12時間に1度」としても平均値は変わらないことから、時刻は\(t (t \in \mathbb{R}, t \in [0, 43200])\)として扱います。
この\(t\)に対し、常に5分遅れている時計の正確さを示す関数\(f_{late}\)、 ある時刻\(s (s \in \mathbb{R}, s \in [0, 43200])\)で停止している時計の正確さを示す関数\(f_{stop}\)をそれぞれ   \[ \begin{eqnarray} f_{late}(t) &=& 0 \
f_{stop}(t) &=& \begin{cases} 1 & (t = s) \
0 & (otherwise) \end{cases} \end{eqnarray} \] と定義します。するとその平均\(E_{late}, E_{stop}\)は \[ \begin{eqnarray} E_{late} &=& \displaystyle{\frac{1}{43200}\int_{0}^{43200} f_{late}(t) dt} \
&=& 0 \
E_{stop} &=& \displaystyle{\frac{1}{43200} \left( \int_{0}^{s} f_{stop}(t) dt + \int_{s}^{43200} f_{stop}(t) dt \right) } \
&=& 0 \
\end{eqnarray} \] となり、両者の正確さはどちらも同じということになります。

一方、デジタル=離散分布における平均も考えてみましょう。
時刻\(n_t (n_t \in \mathbb{N}, n_t \in [0, 43200])\)に対し、常に5分遅れている時計の正確さを示す関数\(f_{late}\)、 ある時刻\(n_s (n_s \in \mathbb{N}, n_s \in [0, 43200])\)で停止している時計の正確さを示す関数\(f_{stop}\)をそれぞれ   \[ \begin{eqnarray} f_{late}(n_t) &=& 0 \
f_{stop}(n_t) &=& \begin{cases} 1 & (n_t = n_s) \
0 & (otherwise) \end{cases} \end{eqnarray} \] と定義します。このときの平均\(E_{late}, E_{stop}\)は \[ \begin{eqnarray} E_{late} &=& \displaystyle{\frac{1}{43200}\sum_{n_t = 0}^{43200} f_{late}(n_t)} \
&=& 0 \
E_{stop} &=& \displaystyle{\frac{1}{43200}\sum_{n_t = 0}^{43200} f_{stop}(n_t)} \
&=& \displaystyle{\frac{1}{43200}} \cdot 1 \
&=& \displaystyle{\frac{1}{43200}} \
\end{eqnarray} \] となり、停止している時計が正確性の面ではマシ、という結論になります。

クイズの意図としてはおそらく離散分布、即ちデジタル時計を意識しているのだと思います(そうでなければクイズを出す意義がない)が、こうして考えてみるとなかなか興味深いものだなーと思った次第でした。

Written on February 6, 2017